音にならない言葉



「行かないで――」

思わず紡いでしまいそうになった言ノ葉を、僕は必死に押し殺した。

ブルーの力強い決意を秘めた瞳が、不安に揺れる僕の心を射抜く。

このまま彼に縋ることができるならばどれだけ楽であろうか…

子供のように喚いて引き止めても、彼はいつものように儚い笑みを浮かべながら おだやかな言葉で、けれど重い決意を込めて僕を宥めるのだろう。

あなたの代わりに僕が…

彼の瞳に宿る意志が、僕の言葉を遮る。



今の僕は、彼にシャングリラへと連れて来られたばかりの14歳の僕ではない。

ミュウの長として、導く者として、彼の意志を継ぐ者なのだ。

まるで墓標のように、不気味な光を放ちながら宇宙に浮かぶメギドへと向う彼を 止める言葉を僕は持たない。

「絶対に生きて帰ってきて下さい」

この残酷な言葉で彼の行く先を縛ることなど…

絶対。

果たされることはないと分かる約束にも彼は頷く。

だから言えない。

長がなんたる者か、その身を持って最後の仕事を成そうとする彼の意志を縛り付 ける言葉など。

何度も…何度も開きかけた唇は、音を紡ぐ前に閉じられた。

唇をきつく噛みしめながら彼の姿を、想いを、強く心に刻み付ける。

メギドに背を向け、僕は赤き大地へと降り立つ。

彼との約束を。

一人でも多くの仲間を助け出すために…

2007/10/08