■指先に心音■(シド)


とくとくと、指先まで心臓になってしまったように脈が打つ。

「シド」

名前を呼ぶだけで私の心臓が一瞬して跳ね上がる。
ああ、私は本当にこの人が好きなんだなとおかしくなる瞬間だ。


「好き」

これはもう挨拶と言っていいほど毎日彼に送る言葉。
こう言うとシドは、幼い頃は「僕も好きだよ」と笑ってくれて。
少し大きくなるとにこにこしながら頭を撫でてくれた。
もう少し大きくなると「いつまでも子供だなあ」と完全に聞き流されて。
そして大人になった今は少し困った顔して聞いている。


「お前な、そういうのはちゃんと好きな男に言うんだぞ」

ずっと親代わりに私の面倒を見てくれた彼にとって、私など妹か娘のような存在なのだ。
いつになったら本気だって伝わるのだろう。
彼にとって私はいつまで聞き分けのない子供なのだろう。

「好きなのはシドよ」

好きな人に好きとしか伝えられないから私は子供なのだろうか。
もっとこの心を伝えることはできないのだろうか。


「ねえ、私もう子供じゃないのよ。私、全然魅力ない?」

男の子にデートに誘われるような年頃になったのよ。
シャングリラのみんが知ってるぐらい、私はシドが好きなのよ。

「私、シドにキスされたいわ」

とてもシドの顔を見られず私はもう何も言えなかった。
もう我慢の限界だった。
好きすぎて好きすぎて好きすぎて、ちっとも伝わらないのがもどかしくて、頭がどうにかなってしまいそうだった。


「……、子供じゃないのが分かってるから困ってるんだよ」

拗ねたようにシドが何か言ったなと思った瞬間、かすめるように唇に柔らかい感触。

「お前情熱的すぎだ」

頬が熱くなる。
もっとこの人を近くに感じたくて、幼い頃した指きりのようにそっと彼の小指に自分の小指を絡めたら、絡めた彼の小指もとくとくと脈を打っていて、私は堪らなくこの人が愛おしくなった。



※何だかんだ言ってシドは押しに弱いと思う。

(恋する五題)

配布元:capriccio