■なぞった涙のかたち ■ 第一声が響き渡る。 激烈な痛みを味あわされた後その痛みにうめいていた皆の目を覚まさせるには十分なつんざめく声。 それは生まれたばかりの赤子が空気を吸い込み、この世の生を受けた証だ。 「カリナ、カリナ!」 ジョミーの弾んだ、そしてどこかおろおろとした声が病室に広がる。 ジョミーは転がり込むようにカリナのベッドの前に立つと、カリナは誇らしげに今まさに産み落とした赤子をジョミーに見せた。 「トォニィです」 腕に抱けるほどの小さな人間を、ジョミーは恐々と覗き込み、強請られて未だ泣き続けるトォニィを抱くと、 その重さと温かさにジョミーは込み上げてくるものを抑えきれなかった。 「ジョミー、泣いてるの?」 カリナは空になった腕を伸ばして、翠の瞳から流れる涙に触れた。 ユウイも心配そうにジョミーの顔を覗きこんだ。 ジョミーはトォニィをカリナの腕に戻すと、袖で涙を拭いて泣きながら笑った。 「前にさ、ほんの少しだけブルーの記憶を見せて貰ったことがあるんだ」 ジョミーはカリナの目線に合わす。 「みんな泣いてた。いつも、悲しみや怒りで、みんな歯を食いしばって泣かまいとしながら泣いてた」 今度はユウイを見つめて言う。 「だからね、こんなに嬉しくて我慢することなく泣けるなんて幸せだなあって、思ったんだ」 ジョミーは、泣くのを止めてじっと見上げる小さなトォニィに笑いかけた。 「ありがとう!」 ジョミーは顔を赤くしながら、言った。 「カリナとユウイと、生まれてきてくれたトォニィに」 ジョミーはこぼれんばかりの笑顔で三人を抱き締めた。 優しく、温かく、皆が生まれた命を祝福する。 宇宙暮らしをやめ大地を踏みしめることを選んだ意味は、カリナの指先に触れた涙の形をしていた。 ※トォニィ誕生エピソードをちょっこと捏造。 (アイ・レット・ユー)
配布元:キンモクセイが泣いた夜
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